大貫隆[著]原始キリスト教の「贖罪信仰」の起源と変容

大貫隆[著]原始キリスト教の「贖罪信仰」の起源と変容

四六判上製・304 頁・本体2,000 円+ 税 
ISBN978-4-909871-94-7 C0016

書 評

贖罪信仰そのものが、
いまだ議論と 再検証の卓上に置かれている!

イエスは人類の罪を贖うため身代わりとなって神に裁かれ十字架で死なれた―この“ 贖罪” を「キリスト教信仰の要諦」とする考えは、何を、何処を起源とし、いかなるプロセスを経て変容・発展・定着してきたのか ―。神概念と共に、今なお謎に満ち、議論の渦中にある贖罪信仰の核心に迫り、キリスト教の再構築を静かに促す。

主な目次

はじめに


Ⅰ 原始エルサレム教会の成立からペトロの指導権時代

一 イエスの死の必然性の論証
二 「人の子」イエスの再臨待望との関わり
三 イエスの死の救済論的・贖罪論的解釈
四 贖罪信仰の成立と定式化
  1   Ⅰコリント書一五章3節bの「キリスト」について
  2  Ⅰコリント書一五章3b—7節はペトロの「文責」
五 贖罪論の広がり

Ⅱ 主の兄弟・義人ヤコブの指導権時代
一 ヤコブの年譜
二 ヤコブの救済論 = 律法の実行による救い
  1 ヘゲシッポス『覚え書』
  2 エイレナイオス『異端反駁』
  3 ヒッポリュトス『全異端反駁』
  4 エピファニオス『薬籠』
  5 『ペトロの宣教集』
  6 まとめ

Ⅲ 原始教団のエルサレム脱出とその後のユダヤ主義キリスト教の展開
一 原始エルサレム教会のペラへの脱出
二 神殿倒壊予言の二度目の再活性化
三 その後の影響史・ユダヤ主義キリスト教の諸分派
  1 ナゾラ派
  2 エビオン派
  3 エールケサイ派
  4 『ペトロの宣教集』から『ペトロの講話集』へ
四 ユダヤ主義キリスト教のまとめ

Ⅳ 補 論
一 マタイ福音書
二 ヨハネ福音書
  1 ヨハネ福音書の成立地=アグリッパⅡ世の領国のバタネア地方
  2 新しい論拠
   ⒜ 「ヨルダンの向こうのベタニア」(ヨハ一28)とは何処のことか
   ⒝ R・リースナー(Riesner)のテーゼ=バタネア地方のこと
  3 洗礼者ヨハネの弟子団との競合・沐浴運動との接点
  4 伝承史の系譜
  5 まとめ
三 マンダ教団
  1 マンダ教徒とその聖文書
  2 「ナザレ人イエス」と「ナゾラ人イエス」
  3 エルサレム脱出以後のユダヤ主義キリスト教との関係
   ⒜ ナゾラ派
   ⒝ エビオン派
   ⒞ エールケサイ派
   ⒟ 『ペトロの宣教集』
  4 まとめ
  5 コーランの中の「サバ人」 — 結びにかえて

Ⅴ 結び:贖罪信仰の起源と変容

Ⅵ 「贖罪信仰」をめぐる現代の議論によせて
一 「罪の贖い」と「苦難の贖い」の区別
二 「罪」の定義の変容
三 「贖罪信仰」の教理化が孕む問題
四 現実性全体の根源への問い
五 補論 神も途上に・再考


【追記】
あとがき
引照箇所索引 
研究者名索引
参考文献

著者略歴

大貫 隆(おおぬき・たかし)

1945年静岡県浜松市生まれ。1968年一橋大学卒業、1972年東京大学大学院人文科学研究科西洋古典学専攻修士課程修了、1979年ミュンヘン大学神学部修了・神学博士、1980年東京大学大学院博士課程(前記)単位取得退学、東京女子大学専任講師、1991年東京大学教養学部助教授、2009年同名誉教授、自由学園最高学部長(― 2014年)。

主な著作:『世の光イエス ― ヨハネ福音書のイエス・キリスト』、講談社、1984年(改訂増補版:日本基督教団出版局、1996年)、『グノーシスの神話』岩波書店、1999年(講談社学術文庫2014年)、『グノーシス考』岩波書店、2000年、『ロゴスとソフィア ― ヨハネ福音書からグノーシスと初期教父への道』教文館、2001年、『グノーシス「妬み」の政治学』岩波書店、2008年、『終末論の系譜 ― 初期ユダヤ教からグノーシスまで』筑摩書房、2019年、『イエスの「神の国」のイメージ ― ユダヤ主義キリスト教への影響史』、教文館、2021年、『ヨハネ福音書解釈の根本問題 ― ブルトマン学派とガダマーを読む』ヨベル、2022年、『グノーシス研究拾遺 ナグ・ハマディ文書からヨナスまで』ヨベル、2023年、他多数

外国語著作:Gemeinde und Welt im Johannesevangelium. Ein Beitrag zur Frage nach der theologischen und pragamatischen Funktion des johanneischen “Dualismus”, Neukirchen-Vluyn 1984; Gnosis und Stoa, Eine Unterrsuchung zum Apokryphon des Johannes(NTOA9), Göttingen/Freiburg(Schweiz),1989; Heil und Erlösung. Studien zum Neuen Testament und zur Gnosis, Tübingen 2004; Jesus. Geschichte und Gegenwart, Neukirchen-Vluyn, 2006; Neid und Politik. Eine neue Lektüre des gnostischen Mythos, Göttingen 2011.

編訳書:ハンス・ヨナス『グノーシスと古代末期の精神I、II』、ぷねうま舎、2015年(2016年度日本翻訳文化賞)、『新約聖書外典 ナグ・ハマディ文書抄』、岩波文庫、2022年、ゲルト・タイセン『新約聖書のポリフォニー 新しい非神話論化のために』、教文館、2022年、他多数